OSSの生活史 第一集
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第三篇

僕は未だに、オープンソースの文化がよく分かってない

語り手=大澤文孝聞き手=大川貴久

2026.07.23 51分45秒(冒頭欠)

ご自身が初めてパソコンに触れたときについて教えてください。

そこからですか(笑)。本当に僕はコンピューターが好きでした。その理由は、どんなこともできるからです。それでこの世界に入りました。もともとは、電子工作が好きで、そこから始まりました。

いまは月刊『I/O』のライターさんをしているとのことですが、『I/O』は、電子工作が主だっている雑誌ですよね。

『I/O』は、これまでいろいろ変遷がありました。僕が読んでいた頃は、本当にプログラミングの雑誌だったけれども、スタートはマイコン。最初はマイコンを扱っていたんだけれど、そこからパソコンが登場してソフトウェアの雑誌になった。投稿雑誌として、プログラムコードが掲載されるようになって・・・・・・。それから投稿色は消えて、マルチメディアの時代になったらCDが付いたりして、一般寄りに寄っていった。その後にアングラの時代があって、いわゆるハッキングとか、悪いことするような雑誌が出たりとかして。そして今、電子工作中心の世界に戻ってきた。そんな感じなんですよね。五〇年もあれば、いろいろ変わるよね。

私も『I/O』は読んでいたのですが、そういう経緯があったのですね。そうするとソフトウェアに実際に関わったのは、ある種、『I/O』がきっかけだったりするのでしょうか。

そうですね。学生の頃から『I/O』の編集部に出入りしてた。もう四〇年ぐらいになりますかね。

『I/O』には、一時期、添付CD-ROMが付いてた時期がある。そのCD-ROMには、いろんなソフトが入っていて、CDドライブの中に入れると、自動的にランチャーというか、メニューが起動するんだけど。そのメニューのプログラムを作ったのは僕。

そうなんですね。

あとは、社内の著者の印税計算するようなシステムも、僕が作りました。

学生さんのときから入って、いろいろやられてたんですね。

はい。本当に学生時代ですね。

すごい。じゃあそこで、どんどんそうしたところでソフトウェアに関わっていくような機会が増えていってというところなんですね。

そうですね。ただ当時はインターネットはなくて、いわゆるパソコン通信。今って、インターネットがあるからいろんな人と交流できるけど、当時はあんまりないから、本当に、内輪だけの話ですよね。

他の方にお聞きしたときにも、まだインターネットがない当時からいろいろやられている方は、何かコミュニティに関わっていたというところをお聞きしています。

そうですね。会えるのは、パソコン通信のオフ会ぐらいでした。ほとんどオンラインで、実際に会うという機会は、本当になかったです。

それからだんだん経っていくと思うんですけれども、そこは『I/O』さんと関わっていって、どんどん繋がりが広がっていく感じだったのか。それとも、また別のところで、いろんな関わりが、増えていったのでしょうか。

どういう方向の話かもありますが、僕の仕事のひとつ「執筆」という意味だと、工学社で執筆していたら他の出版社さんからも声がかかって、いろいろな書籍を書かせていただいて、いまに至ります。

執筆以外の広がりは、どのようだったのでしょうか。

執筆の媒体として、雑誌と書籍があるわけですが、雑誌がたくさんあった当時は、いろんなコンピューター雑誌に書かせていただきました。

大川さんが知ってるところだと、インプレスの『インターネットマガジン』は、もしかするとギリ知ってるかもしれない。若いから知らないかもだけど(笑)。あとは、翔泳社の『Visual Basic マガジン』というVisual Basic だけの雑誌とかもあった。ほかにも、セキュリティだけの雑誌とか、ほんとうにいろんな雑誌があった。

そんな良い時代もあったものの、だんだんと雑誌の売り上げが減って、雑誌自体が休刊などで少なくなっていきました。

そんな時代なので、少しずつ開発の仕事にシフトしました。業務委託。だから、今でも、業務委託という形で開発をしている一方で、書籍の執筆もしている。

最近は、初心者の方とか、いわゆるプログラミングを勉強しはじめる方が増えてきたので、スクールの需要も結構ありまして、講師業もやっています。

本を実際に書かれていて、(売り上げが)減ってきた頃って何年頃とかだったんでしょうか。

二〇〇〇年ぐらいじゃないですか。

そんな早かったんですね。

ちょうどムックって呼ばれる、いわゆる雑誌形態なんだけど、定期発売ではない形態の雑誌がありまして。そういうのがいっぱい出たときに、バブルがはじけました(笑)。

だんだんと出版不況になっていって、コンピューター雑誌が売れなくなっていく。おそらくその頃になると、インターネットでの情報、いわゆるメディアニュースみたいなやつ。今で言えば、PC Watch とか ITmedia とか。CodeZineとかもそうだけど。そういうメディアが、雑誌の代わりになっていった。そういう時代ですよね。

確かに、今もそういったものがよく読まれているというところで。

そうなんですよ。だから今、雑誌は結構厳しい。そういうメディアと戦わなくちゃいけないから、厳しい!

なるほど。インターネットがそれこそ発達してくると、先ほどパソコン通信のオフ会の話もあったと思うんですけれども、そうなると実際、ネットでの関わりの幅は広くなってくるのでしょうか? それともリアルでの関わりが、変わらず多いのでしょうか。

僕は、ネットとか通信上で知り合った人っていうのは少ないですね。

そうなんですね。

逆に言うと、OSCに出たり、OSCの懇親会とか出たりとか、そういうところでいろんな人と出会いました。だから、人と関わるという意味では、OSCに参加するまでは、かなりブランクがありました。

OSCとか、そういうところに参加された経緯を聞いてもいいですか?

OSCは、僕ではなくて、もう一人、一緒にやってる小笠原という人がいて。ちょうどコロナ禍だと思うんですけど、その小笠原宛に、『ちょっと講演しない?』というお誘いがあったんですよ。どういう経緯で呼ばれたのか分かんないけど、おそらく、新しい人を呼んで OSC を盛り上げたいとか、いろいろ思惑あったんじゃないかと思います(笑)。いずれにしても、そういうかたちで誘っていただき、それから仲良くさせていただいてるという経緯です。

順番が前後してしまうのですが、その小笠原さんが主催されているモウフカブールについてです。実際こういうコミュニティとかって、どういう経緯でされているのか。結構、私も OSC に行くたびに毎回お目にかかるのですけど。

モウフカブールというのは、元々、同人誌のサークルです。スタートの発端は、コンピューターとは全然関係ないコミケです。コミケで写真集のサークルとして始まった。今年もコミケで、コンピューター島じゃなくて写真集島で参加しました。

サークルカット見てたら、出られている。

はい。コミケはコンピューターの分野での参加じゃないんです。モウフカブールは、そんな感じの同人活動をしていたんだけど、そのうちに技術書典などの技術同人誌の即売会イベントが登場して、だったら技術書の同人誌も書こうかということで、今に至ってます。

実際にお仕事で書籍も書かれている中で、同人誌も書かれるとなると、住み分けは、どのようにしているのでしょうか。

それはもう明確で、部数というか規模ですね。商業の書籍ですと、部数の制約があります。ミニマムでも一〇〇〇部以上、ふつうは二〇〇〇部とか三〇〇〇部とか売らなければ、どうしてもペイしないので。それ以下しか見込めないようなネタは、残念ながら同人誌にしています。

だからニッチなネタとか。あとは書籍では、そうですね、伝えにくいやつとかですかね。書籍って長いスパンで売らなくてはいけないので、どうしても今、旬で書きたいけれども、これはおそらく内容が変わるみたいなのがあるじゃないですか。それは商業的にはちょっと厳しいので、さすがに先に同人誌でちょっと固まってから商業誌かな、っていう感じもあります。ですから、その辺で住み分けています。

最近はClaude Codeについての本を書かれているようですが、やはり売れるといいますか、人気があるから、そういう分野を狙うということでしょうか。

そうですね。とはいえ、やっぱり出すタイミングも当然あると思いますけど。おかげさまでClaude Codeの本がすごく売れてるけど、あれが例えば、じゃあ三ヶ月前に出したら売れたのかとか。逆にもっと早かったら売れたのかとか。逆に、もうちょっと遅くしたほうが売れたのかっていうのは、ちょっとそれは分かんないよね。

書籍は、二〇〇〇年頃から継続してやられているのでしょうか。

書籍はもっと前から。一九九〇何年ぐらいからやってた。一番最初に書いた頃って、いつだったかな。https://mofukabur.com/のバイオグラフィにあるんですが。確か、小笠原と大澤の両方載ってるんだけど。下の方に大澤文孝の著作があって。出版年月順の一番下見ると、一九九六年がスタートですね。

大川さん、生まれてないかもですね。

いや、そうですよ。私は二〇〇五年生まれなので。書籍はやはり、その時の流行りに左右されるものなのでしょうか。

そうですね。「こういうのをやりましょうよ」というネタを持ってくるのは編集部なので、僕にはわからないところもあります。ですから、逆に、編集部側から「新しいネタ」を知るというような、勉強になる部分もありますね。

例えばJavaの記事を書いたときの話をすると、それこそベータ版とかアルファ版のときに、編集部から話があるわけですよ。当時はオラクルじゃなくて、サン・マイクロシステムズだけど、その発表会に行って、お前話聞いてこいって言われるわけです。話を聞いて記事書いてというような、勉強しながら書くというスタイルでのスタートになります。

実際に書かれる際に、キャッチアップされてからやられるって感じだったんですね。

そうですね。全部ほぼほぼそうです。それが得意だからということではないです。

私は、本を書くというのは、ご自身が得意な分野について解説されているような認識だったので。

認識は合っていると思いますよ。いわゆる職業ライターじゃない人は、当然専門家として、例えばウェブに強い人がウェブ、ネットワークに強い人がネットワークについての専門書を書く。そういうのは、もちろんあります。ただ僕の場合は、カバー範囲は、そこまで上級者ではなくて、入門書から中級ぐらいまでのところがカバー領域です。ですので、幅広い分野でわかりやすくというところを目指して担当しています。僕はふつうに開発者なので、エンタープライズ系など、個人では手が届かないような実機・実務が必要なところ以外は、ほぼカバーできます。

本もそうですが、いろんなことを初心者に教えるセミナーをしたきっかけのようなものはありますか?

特にはないけれども、OSC は大きなきっかけでした。それより前にも、二〇〇〇年ぐらいですかね。マイクロソフトのAccessというデータベースソフトに関するイベントで、話す人がいなくて、呼ばれたことがあって、おそらくセミナー経験のスタートはこれだと思います。そのときは、すごかったよ。大々的な会場でね。たぶん、会場に四〇〇人ぐらいいたと思う。マイクロソフト社のイベントで、主催は翔泳社さんだったと思う。

そこからしばらくセミナーはしていなかったんだけど、さきほどお話ししたようにOSCからお声がけいただき、四〇分の枠をいただいてお話ができるということで、いろいろ経験しているうちに、慣れてきました。

それと別に『SEプラス』とか『Schoo』とか、どういう経緯でお声掛けいただいたのかは覚えてないけれども、そういうところでのセミナーもするようになりました。

実際にお声掛けいただいて、実際にご自身で学習された上で、皆さんにお伝えするような形でやられているのでしょうか。

そうですね。とはいえ講演の方は、まっさらなところから依頼というよりも、本という著作があるから、それについて解説してほしいということほうが、さすがに多いです。要するに、「本を書いているんだから、このくらいの内容は知っているだろう。」という前提でお話がきます。講演は、お客さんがいるものですから、これができるだろうみたいな見込みだけの新分野への依頼は、さすがに来ないですね。

例えばウェブについての著作があるから、ウェブについて語ってほしいとか、セキュリティの著作があるから、セキュリティについて語ってほしいとか。明確な根拠があってご依頼いただくケースがほとんどです。

話は変わって、今度は、開発に携わったきっかけについて教えてもらえますか?

わかりました。開発については、はっきり言うと、人材不足。年中、人が足りない。そこでたまたま、ちょうど雑誌の仕事も少なくなってきていたので、「暇だったりしない」みたいな形で、とある会社にお声掛けいただいて。デスマーチみたいなところで仕事をはじめたというのがきっかけですね。

そのまま、書籍を書かれながら並行してずっと開発もされているのですか?

そうですね。たいへんではありますが、開発は面白い経験。やっぱり、書籍を書いていると、(扱うものが)どうしても最先端とか新しいものになるでしょう。ところが実際に現場に行くと、そんなことは全く、最先端なんてどこにもない。泥臭い作業だったりする。

今では違うけど、僕が最初に入ったときは、例えば分かりやすく言うと、雑誌や書籍では、クラスとかオブジェクト指向っていう話を僕は書いてる。けれども、現場は全くそうじゃない。そういうギャップがあるから面白い話で、それを知った上で雑誌や書籍を書いていく、そういういいきっかけになりましたね。

なるほど。現場を実際に知りながら。

そうですね。現場を絶対に見なくちゃいけないと思っています。ですから今でも現場を離れていないです。

そういったものが、フィードバックとして書籍といいますか、同人誌とかになるんですかね。

まさにそうです。書籍は特にそうですよね。そしてフィードバックという意味だと、OSC はとても大事です。いろんな人の現場で使ってる意見が聞ける。ときどき作ってる人も混じっているから、作ってる設計思想まで聞ける。こういう機会は、めったにないチャンスですよね。

少し話はズレますが、技術的に分かって使えるのと、その思想がどうなのかっていうのを知って使うのでは、すごく違うと思ってます。特にフロントエンドの業界。ReactとかVue.jsとかいろいろあると思うんですけど、どうすればどうなるっていうのは、全然普通に分かる。それは、ドキュメントとか読めば分かる。そうじゃなくて、その機能が何のためにあるかっていうのを理解しないと、使いどころを間違えるんですよね。だからそこを理解する上でも、いろんな人の意見を知りたいっていうのが、やっぱりあるんですね。

使いどころというか、その機能やソフトウェア、ライブラリが何のために生まれたかを意識していかないと、間違った使い方をする可能性があるなと、最近強く思っています。

OSC では、いろんな技術に触れる機会があるだけでなく、開発者の方とのお話も伺えるというメリットもあるのですね。ありがとうございます。少し話が変わってしまうのですが、今度は、いま関わっているPLATEAUについてのお話をお伺いしてもよいですか?

PLATEAUを始めたきっかけは、知り合いの編集者から話があったからです。真偽は知りませんが、僕に声がかかってきた理由は、幅広い技術を知っているからだと聞いてます。PLATEAUは総合格闘技じゃないけど、めっちゃ分野広いんですよ。地図なのでGISが基本なんだけれども、3D地図の描画という意味だとUnityの話もある。それからウェブの文脈でJavaScript・TypeScript の話もあるし、データ変換や活用の文脈ではPythonも出てくるというように、めっちゃ幅広い。

編集さんは、そういう幅広いところができる人を探していたようです。

ドキュメント担当ということをお聞きしましたが、具体的に、どのようなところを担当されているのでしょうか。

そうですね。PLATEAU のチュートリアルのページって全部あると思うんですけど、それの執筆と整理と、原稿整理とか全部担当してる。三六個ぐらいコンテンツ。

今三九ありますね。それ全部。本当に、先ほどおっしゃった通り、その JavaScript から Python から。

その中に、ロボット制御の ROS とかもあるのよ。

そうなんですね。ソフトウェアっていうか、ハードまで。

もちろん、全部監修の方がいて、元ネタや素稿はもらえます。専門家にお話を聞いてそれをまとめたりとか、あとは専門家の方の元の原稿を整理するとか、もしくは専門家の方にネタだけもらって僕がサンプルコードを書くとか。いろいろパターンがあって、専門家さんの都合の良い方法でやらせていただいています。

ユースケースなどもすごいですね。かなり詳細に書かれています。専門家がいるとはいえ、技術を基本的に理解した上でやらないと難しいところなのですよね。

そうですね。分からないところは監修者に聞いていくのですが、結構、これめんどくさいんですよ。例えば先ほどのROSとかだと、ROSの環境をまず用意することから始めなくちゃいけない。さすがに、そこまでやるライターってそんなにいないんですよ。僕はそういうところから全部含めてやっているので、幅広い知識が求められますね。

本当に、これらすべてに全部通じていらっしゃるからこそ、こういったところでいろいろやられているのですね。

とにかくプログラミング言語が多岐にわたるのもあるし。それだけでなく、データ構造もわかる必要がある。もちろん、監修者がプログラムを書いてくれることもありますが、もし間違っていれば、それを指摘しなくちゃいけない。間違っているケースはあまりないのですが、そのプログラムを動かすときの前段階の準備を省略してくるケースは、そこそこあります。何かのライブラリが足りない、コンバートしておかないといけない、このデータをこのフォルダに置いておかないといけないなどですね。そういうときは、前提として何か抜けてるんじゃないと質問する。

専門家は専門家向けに書くので、前提が抜けてることは、結構あります。それを補足するのも僕の仕事です。

それは、初心者に向けた本を書いているからの経験ということでしょうか。

そうですね。そういう補足をするのは大事な仕事です。

ありがとうございます。これまで執筆や開発、講師、それからPLATEAUのようなサポートなどもやられてきたわけですが、そういうことを二、三〇年間やられてらっしゃる中で、課題とか、行き詰まったりしてきたところなどについて教えてください。

そうですね。これまで行き詰ったところは特にはないというのは、感じてないです。おそらく、ないんじゃなくて、うまく回避してきただけだと思いますけど。とはいえ結局やっぱり、一人でやるから時間の制限は当然あるので、その時間の制限を超えることができないという課題はありますね。一方で、特に技術的な困難がどうこう、みたいなのはほとんどないです。

じゃあなんでも仕事として受けるのかというと、そういうわけでもない。今でもお断りしてるのが、エンタープライズの案件。いわゆる高価な機材を用意してとか、サーバー何十台も用意して実際に検証してほしいとか。そういう傾向の原稿を書いてほしいというのは、お断りしてる。実際できないしね。あとビッグデータもできないですね。僕、そんなにたくさんデータもってないから。

そうしたなかで、変わってきたところはありますか?

変わってきたところは、はっきり言えます。この業界、コンピューター好きの人だけじゃない業界になりました。

今まではコンピューターが好きな人がこの業界に入ってきました。ところがここのところはそんなことはなくて、コンピューターの好き嫌い関係なく、優秀な人が入ってくる業界になりました。その優秀な人たちはコンピューターのことを知らない。いやごめん、知らないというのは言い過ぎ。そこまで詳しくないぐらいにしとく(笑)。だけれども、優秀だから勉強すればすぐに習得できる。だからこそ僕が例えば講座をする需要があるし、本もそういう基礎的なところを理解するための書籍の需要がある。

正直言うと、昔だったらコンピューター好きの人がこの業界の大半だったから、僕がいま講座していることとか、本に書いていることとかって、改めて言わなくても、みんな知ってた。だけれども、いまは、そういう時代じゃない。そうした基本をきちんと言わなくちゃいけないし、整理してまとめなくちゃいけない時代になってきたと思いますね。

なるほど。好きな人だけではないからこそ、初心者向けであったりとか、そういったものが出てきたっていうことですね。

この業界、好き者が集まってきたから、あんまり良くない傾向として、勉強するためのロードマップとか、そういうのが揃ってないんだよね。だから、いつでも人材不足。人を集めようと思ってもコンピューター好きな人ばかりじゃない。コンピューター好きな人を集めたところで、人が全然足りないから。だから今後は、そういう教育のプロセスをもっとちゃんと用意しなくちゃいけないなという危機感があります。

それはどういうところで感じられますか? 本を書く、コミュニティ、同人誌などいろいろありますが。

コミュニティの方は、おおむね好きな人しかいないので以前からあまり変わってないです。同人誌の即売会については、昔は、コンピュータ好きな人しか来なかったのに、いまでは初心者の方が、こういうのがないかなっていう方が増えてきて、この変化を大きく感じます。セミナーというところで言うと、OSCはどちらかというと好きな人たちだからちょっと違うけど、一般的な講演会、たとえばデブサミ(デベロッパーサミット)みたいなところ。ああいう会場の懇親会とかでチラッとお話しすると、初心者の人とかに出会えます。そういう人たちと話すと、どういうところに困っているのかとかが分かる。新しくこの業界に入ってきた人たちと、どこから勉強するか、何に悩んでいるのかという話ができる機会が、もっと増えるといいなと思います。

私自身もそこまで技術に詳しいわけではないんですが、OSCなど、コンピュータ好きの人がたくさんいるところに関わると、いろんなお話をお聞きできると感じています。そうした最初の入り口として、何かセミナーなどがあると、とても嬉しいなと思っています。やはりウェブだけだと、どうしても分からないことが多いと思っています。

とにかく今、技術の幅が、とても広いから、何が基本で何が応用なのか、これとこれが繋がってるのか、繋がってないのか、分かんないでしょ。そういったところは、何か整理できるような形とかした方がいいと思うし、そうしないといけないなと思ってます。おそらく、こちらから、どこが迷ってるのとか、どこが分かんないのっていう風に聞いても、そもそも何が分からないかが分からない人も多いと思う。

確かに。

だからそこを踏まえて、もう少しなんとかしていかなくちゃいけないですね。

それで言いますと、近年モダンな技術といいますか、それこそ AI みたいなものがある程度台頭してきて、それこそ何が分からないのか分からないままでも、ある程度形になってしまうような状態にもなってきていると思います。ある種、バイブコーディングのようなものもありますが、そういったところに何かしら感じられていることはありますか。

AI は当然僕も使ってるんだけど、まず大前提として、AI は反対とか賛成とかするっていう話じゃなくて、もうあれは使わなければスピード的に勝てないものだと思ってます。ですので、どういうふうに使うかは別として、効率化、スピードアップという意味では、AI を使わなければならないというか、勝てないものだっていう認識、立場です。

その上でお話しすると、たとえば、先ほどおっしゃったバイブコーディングの話になりますが、バイブコーディングは個人で使うには全然いいと思いますけど、プロダクト作りとしては基本ダメだと思うんですよね。なんでダメかっていうと、どういうことをするかが分からないからです。

逆に言うと、どういう動きをするかをきちんと、例えばテストコードを作るとか、仕様書を書くとか、仕様書通りに動くことを確認するとかしているのであれば、全く問題ないと思います。一番怖いのはやっぱり、挙動が分からないものはそのまま使えないっていう、それだけの話ですね。

実際に AIを使ってコードを書かれてますか?

はい。AIでコード書いています。当然、AI が書いたコードは確認しています。ただ正直、今後も人間が目視確認できるかどうかというのは、ちょっと分からないと僕は思っています。人間が見切れないだけの量のコードを書いてくる可能性が、今後あるからです。

なので今後、場合によっては、コードは見ない。ただテストは作って、テストの結果だけを見る。いわゆるブラックボックスだけど、外の表面上に問題がないかだけを確認するということはやる、という流れになっていくかもです。ただそれだけだと当然、セキュリティなどテストで表面化しない問題は残る。そうした問題については、生成AIを使って内部レビューするような形で、誤魔化していく方向に流れるのではないかとみています。

十分に確認はちゃんとしないと使えないっていうところは、やはり変わらない。

テストだけ通れば、その中は何が書いてあってももう、しょうがないじゃん。そもそも今、人間が書いてるコードだって、テスト通れば、まあちょっと…、と思っても、ということはあるでしょう。もう、そういう時代ですよ。

実際に書籍に書かれる際に気をつけているところはありますか? たとえば、AI の使い方もそうですが、モダンな技術、DockerやAWSでも。AIに限らず、モダンな技術は、ある種、抽象化して見えないようにするものでもあると思うのですが。

確かにそうかも知れませんが、あまりそこまでの意識はないですね。AWS 使うことは問題ないし、AWS の注意点も特にない。ただおっしゃるように、AWSを使うと、中身をよく知らなくてもインフラ作れる。Docker だって中がどうなってるか分からないけど docker runで動く。もちろん危険性はあるけれども、まずは、動くならそれでいいんじゃないかという思いはあります。

AIについて言うと、作られるコードが危ないのもそうだけど、AI の、特にエージェント系のやつだと、勝手に動いて勝手に壊すじゃないですか。それをどうするかという話があります。僕はコンテナの中で動かそうよということを、もう強く強く言ってるわけですけど。コンテナじゃなくてもいいですが、何らかのかたちで守って、限られた場所で使うならいいのではないかなと思います。もちろん、そういう時代だからこそ、この下の仕組みを知らなくちゃいけないのは、それは事実ですよね。なんとかしなくちゃいけないとは思いますが、良き回答はないですね。時代の流れですし。

ありがとうございます。ここまでで一つまとまったところとして、今後多分、書籍の活動であったり、同人の活動であったり、いろいろやられると思うんですが、今後も何か変わっていく中で、していきたいことについて教えてください。

AI が手に入ったことで、今までよりも簡単に試行錯誤ができるようになりました。ちょっと自分でコードを書くのがめんどうくさいなと思ったことが、すぐにできるようになりました。そういう意味で、いろんなものを今までよりもたくさん作っていきたいなと思っています。今までって、めんどうくさいことは、本当に手につけられなかったんですよ、アイデアがあったりしてもね。だけど、AI によってそれがなくなるから、もっといろんな人がいろんなことにチャレンジできるようになると思います。

あと、生成 AI について言うと、この間 OSC で、とある人とも喋ったんですが、僕らシニアのエンジニアにとってはすごい力になるんだけど、若い人は、よく全体が分からないものを使うから結構厳しくて、このままだとシニアはもっと強くなるだけだよね、と、そんな話をしました。若い人が AI を使うためには、全体の仕組みとか、これをこうすればこうなるはずとか、そういう俯瞰したところを理解していかないとダメな時代になる。細かいコマンドがどうこうじゃなくて、確かこんなコマンドあったはずとか。表面上動いてるから中のプロトコルはこのはずとか。そういう想像ができるようなところ、全般的な知識を手に入れると、AIの真価が発揮されると思います。

これからは細かいものよりも、全体感としてどういったものを知っておくのが大事だと。

細かいところをやらないとその全体も分からないというのもあるから。そこはジレンマですね。ですから、どこで細かいところを体験するのかという課題は残ります。

ありがとうございます。一時間お話いただいたというところで、他に私の方から、多分かなりお伺いできたというところでいます。

最初にご依頼いただいた「オープンソース」について、少しお話しましょうか。

オープンソースについては、文化を理解しなければならないと思っているのですが、白状すると、僕は未だにオープンソースの文化がよく分かってないです。雑誌や書籍などでオープンソースを紹介していくのはもちろんしていくし、それが普及に一役買いそうな気はしているけれども、紹介の仕方によっては、タダですから、みんな使ってくださいとなってしまう。表現によっては、タダ乗りとかになっちゃう。それは避けたいと思っています。なのでオープンソースの人たちが、どういう形で紹介してほしいのか、どういう風に使ってほしいのかとか。そういうところを、もう少し知りたいというところがあります。

そうなんですね。私が確認した感じでは、あまりオープンソースの技術について書かれてる本がない印象なのですが、そういった側面があるからでしょうか。

オープンソースって、下手に僕が語っちゃうと「それは違うよ」みたいなのあるでしょ。人それぞれでオープンソースの捉え方が違うから、オープンソースについて語るのってすごく難しいと思います。

OSCとかでは、オープンソースにどういう人がどういう思想でやってるかとか、そういったことをお聞きしたいです。

そうですね。僕もそういうところが聞きたい。関連するかどうかわからないけど、この前、OSCの宮原さんと二次会で、『僕みたいなオープンソースにあんまり関係ない人が、どうやってOSCに関わって貢献するといいですか』って聞いたんです。そうしたら、『とりあえずこういうふうに来てくれるだけでいいです』って言ってくれた。まあそうかも知れないけれども、それはそれとして、どういう感じでオープンソースとして付き合うのが、嬉しく思うのかを知りたいというのは、根本にあります。

例えば、オープンソースを実際に使ってて、「こういう改良があるからどう?」みたいな提案をするのは貢献するひとつの方法だと思うけれども、やり方を間違えると、それっていいけど誰が実装するの? とか、下手するとタダ乗りっぽく見えちゃうこともある。こういう文化というか見え方とか、そういうのが難しそうだなぁと感じています。

私も同じような感じで、やはりどう関わったらいいのかみたいなところが分かりにくいと感じることがあります。

僕は少し思うことがあって、オープンソースに関わる人って、企業の人が給料をもらいながら働いてる一方で、本当にまったくのボランティアで、オープンソースに開発・コミットしてる人もいるんですよね。それを同列に扱うと、なんかちょっと話が違ってくると思っています。

企業の人たちはお給料をもらってて、そのお給料の範囲内でオープンソースに関わってるわけでしょ。つまり仕事。そうじゃなくて趣味の個人が、オープンソースに関わる場合、それは生活の個人的なリソースをどれだけ割くかという話になる。おそらく企業の人たちは、例えばこれ直してとかプルリクもらったとき、仕事ならそれでやると思うけど、個人だったら、こんな面倒くせぇって思うことだってあるでしょ。だからそこは区別して考えなくちゃいけない。仕事でやってるのか、理念でやってるのか、それともまったくの趣味でやってるのかっていうところは分けなきゃ。

Linux Foundation とかの貢献で、たくさんの企業さんがサポートして大きくなり、できることも増えたし、スピード感も増してきた。つまり、オープンソースの力がすごくなってきている。それが確かに事実だと思うけど。そういうパワーのあるオープンソースだけじゃないので、一緒くたにするのはいけないなと思っています。

そうですね。いろんな方々に今回お話を伺っているのですが、それこそお仕事で関わってらっしゃる方もいらっしゃいますし、好きで関わってらっしゃる方もいるので、どういう関わり方がいいのか考えています。

オープンソースってビジネスと関わる部分もあるし、コミュニティと関わる部分もあるし、いろいろあるから。難しいよね。

難しいなっていうところで、今回いろんな方に、OSC に来た方はじめ、いろんな方にお聞きできたらなっていうところがあったっていうところなんですけども。今後いろんな方にお聞きして、それをどういう感じだったかっていうのを報告とかできたらいいなという風に思ってます。

オープンソースについてどう思うかは、いろいろ聞いてみるといいですね。

そうですね。ぜひ、そんな感じで皆さんに聞いていけたらいいなと思ってます。ありがとうございます。オープンソースについてもお話いただいて。

またOSCとかで会いましょう。

よろしくお願いします。ありがとうございました。

語注

I/O
工学社が発行する月刊のコンピューター誌。一九七六年創刊。読者がプログラムを投稿する時代を経て、現在は電子工作を多く扱う。
マイコン
マイクロコンピューター。一九七〇年代から八〇年代の、個人向け小型計算機の呼び名。
パソコン通信
インターネット普及以前の、電話回線で中央のホストに接続して掲示板や電子メールを使う仕組み。
インターネットマガジン
インプレスが一九九四年から二〇〇六年まで発行したインターネット専門誌。
Visual Basic
マイクロソフトのプログラミング言語。かつて専門誌が存在した。
ムック
雑誌と書籍の中間の形態。発売日が定期でない。
PC Watch、ITmedia
いずれも一九九〇年代後半に始まった、コンピューター関連のニュースサイト。
モウフカブール
語り手が小笠原種高氏とともに活動する創作サークル。コミックマーケットでは写真集を、技術書典では技術同人誌を頒布している。
技術書典
技術書だけを扱う同人誌即売会。
サン・マイクロシステムズ
Java を作った米国の計算機メーカー。二〇一〇年に Oracle が買収した。
Schoo
オンラインの動画学習サービス。
OSC
オープンソースカンファレンス。
デブサミ
Developers Summit。開発者向けの講演イベント。
PLATEAU
国土交通省が進める、日本各地の3D都市モデルを整備・公開する事業。データはオープンライセンスで提供される。
ROS
Robot Operating System。ロボットを制御するためのソフトウェア基盤。
React、Vue
いずれもウェブ画面を組み立てるためのJavaScriptのライブラリ。
バイブコーディング
生成AIに任せてコードを書かせる進め方。
Linux Foundation
Linuxをはじめとするオープンソースの開発を支える非営利団体。企業からの資金で運営される。

本文のライセンスは CC BY-ND 4.0。翻訳とその公開・配布は許諾しています。図書カード(PDF・TXT)